うー。
久々に飲んだ酒ってワケでもねェのに、今日はヤケに効きやがる…
頭もこう、おもっくるしい感じだしよ。
これじゃー酒飲んでても面白くもねェし気持ち良くもねェや。
やめよっかなぁ…

そう思いつつ、酒瓶を手に取る。
昨日手に入れたBEEFEATERのジン。
飲み屋の帰りがけに、其処のマスターが手渡してくれたモンだ。
…マスターっちゅか。
ママ、か、アレは。
よく言うアレだ、オカマ?いや、下ついてるらしいからゲイか?
まぁどっちでもイイ。
言っとくが、ソコに男アサリに行ってんじゃねェからな。
俺はウリをすることもねェし(フトコロの度合いによるな)
買うだなんて面倒なことするくれェなら、クチで引っ掻けるさ。
男も女も、ヤリたくてしょうがねぇヤツラばかりさ。

っと、話が逸れたな…
…ちったぁ酒が抜けてきたようだが、どうも頭の重さが取れねェ。
もしかしたら、酒を飲んだら血の巡りでも良くなってすっきりするかも…
…さっきからコレの繰り返し。
どうも、おかしい…
ヒタイに手を当てて考える。
血管でも詰まってんのかな?
…うう、冗談じゃねェ。

紛らわす為に、ジンにもう一度口をつけた。

    ぴりりりりりり。

酔えば分からなくなるかも…

     りりりりり

っせーなー…
 
       り

あ、電話ぁ?か。なるほど、ウルセェ訳だ。

       ん

受話器を手に取って、そのまま置こうかと思った途端。
下に向けたまんまの受話器から、なにやら怒鳴り声。
「うっせーな…」
聞き取れるほどではないが、なんかよ、こう、怒ってるやつが相手だ。
面倒だな。
切るか。

プツ。


切ったぞ。ザマーみろ。
…やべぇ。
頭、クラクラしやがる。
…認めたくねェんだけどよぉ。
風邪薬とかって、ウチに有ったっけか…なぁ。


      ぴりりりり

「っせーな…」
風邪薬なんか、ウチにねェことは百も承知。
買ってねぇモン、有るわけねェ。
ヒタイに手を当てて。
ああ、アッチイなぁ…
風邪なんてよ、本当久しぶり…
いや、風邪か?これ。
認めたくねー…

     
      りりりりり


無意識に受話器を取り上げて。
耳に押しつけた。
俺の多分熱い息が、その受話器に掛かる。
まるで逆エロ電話じゃねぇかコリャ。

『おい?』
「ああ?ドコのどいつだ」
『さっきから電話してりゃあ出ねえし出ても切るし、って、なんだそのエロクセェ声は。』

この口の減らない男はセイバートゥースだな。
まったくよぉ。
人が、なんか、ダルイってのに
なんだろ
腕が、重…
電話、だっけ?誰…

『おい?聞いてんのか?!』

声、聞こえる
ヤバ…
悪酔い…違…ソレよりもっと…
なんにも、考えたくねー…





ずっと、床を見てボーっとしてた。
なんかよ、近づいてきたり離れて行ったりよ。すんだよ。
頭支えてらんねぇから下しか見れねェし
身体支えてらんねぇから座りこんでるし俺。
電話、落ちてるし
眠いのかなんなのか、もー、駄目…






冷たい感触。
気持ちイイと感じたのは熱のせい?
ふ、と目をあけると、いかつい顔のオッサン。
「動けるか?」
俺にそう問い掛けて。
多分、ここで寝てちゃいけないんだとか言う
そう言った考えで俺にそう言ってるんだろうな。
ベッドまで歩けって?
面倒だ…
目を、閉じようとすると。
「おいおいおい。どうしちまったんだ…ったく、世話の、焼ける…」
フワリ、と、身体が浮きあがった。
ぐらぐらしてる頭が、その動きに揺さぶられて酷いメマイになる。
「う…」
苦し紛れに声を出すと、セイバーが歩くのをやめた。
俺の様子をうかがって、もう一度歩き出す。
どこ、連れていかれるんだろうな…
はは、相手によっちゃこのまま売られたりして目が覚めたら囲まれてたりしてなぁ…
あぶねぇ橋、渡ってんじゃねぇよ、俺…

フワフワした感覚の中。
柔らかい布が身体に掛けられるのが分かる。
ベッドの中だろ、ここ。気持ちイイよな。
…身体、沈んじまいそうだよ…
「山崎?…眠れそうか」
「…眠りたくねぇ…」
「あのなあ、こう言う時は眠っておいた方が」
「…眠ったら戻ってこられなくなりそうだからよ…眠りたくねぇ」
セイバーのヤツの大きな溜め息が聞こえた。

「んなコト言うとなぁ。眠れないようにしてやろうかって気になる」


ほんっとぅ。
コイツの頭ん中、ソレばっかりな…


ベッドの湧きの椅子に腰掛けたセイバーが、椅子ごと身体を近づけてきた。
ガタン、と椅子の音。
薄目でそっちを見ると、自分の爪で自分の爪先を弾いてる指が見えた。
それが短調で、つい、眠りそうになる。
眉をしかめて、もう1度目を開けた。
指はもうそこには無くて。
代わりに、布にもぐりこんでくる指。
不意に、微かではあるが頭が冴えるのを感じる。

腹に這わされた指に。
思わずゾクリと来て。下半身が総毛立つような感覚に溺れる。
「なぁ…セイバー」
「なんだ?今更イヤだとか…」
「俺、何ンもできねーぞ…」
「構わん」
「だってオメーだって…」
そっちにだって、気持ち良くなりてぇって言う欲望はあるだろうよ?
でも、俺今日はお前を気持ち良くさせてやれるヨユーってんが…ねぇのよ。
このまま、熱に浮かされてボーっとしてたいような。
でも眠りたくないのは、
起きたら世界が知らないモノに変わっていてしまいそうだったから。

俺の言葉を聞いてないような、指の動き。
まるで当たり前のように俺の身体を探る。
息が、荒いのは、熱のせいなのか…もう、俺、キちゃってんのかな…

セイバーに目を向けると。

「イイから、じっとしてろ」

そう言われた。
大人しく、上に向き直る。

「山崎、ちょっとだけ動け」
「今動くなってぇよ、言ったばっかじゃ…」
「足開け。イタズラしてやるからよ」
「…そ、そう言う言いかた…すんな」

悪態をつきながらも、言われるがままに膝を立てて足を開く。

なんで、俺言うコト聞いてンだ?

コレじゃあまるで欲しがってるみてぇじゃねぇか。
でも、頭ボーっとしてて。
駄目だ…

「山崎…」
「…ッ…は…」

身体に纏う布を割って入り込んできた指が、
俺の下腹部を軽く掴む。

「スゲェ熱いぜ?」
「…熱のせいだろ…」
「熱があるとお前は勃つのか?」
「るせー…な…」

沈みそうになる意識が、
指の動きで呼び覚まされて。
そう、もっと呼び覚ましてくれよ。
眠りたくねぇンだ。

パサ、と音がして、
布団の中にセイバーの身体が潜り込んで来た。
仰向けの俺に上に、覆い被さるように。
指は俺のソコに絡めたまんま…

「動くなよ、病人」
「…病人相手に何やッてんだ」
「欲しがったのはお前だ」
「…違いねぇ」

熱く。
もっと熱く。
身体に這わされる舌がものすごく熱くて、
だけど冷ましちゃイケナイ…もっと熱く…
掛け布団に掻き消える様に潜り込んだセイバーの唇に俺は犯されて。
熱い粘膜に包みこまれて、舌を出して喘ぐ、犬のように。
頭をもたげると、セイバーが目だけで俺を見ながら舌を出してた。
「…ン、ぅ…ッ…み、見んな…よぉ」
俺の声を途切れさせるように、
軽く立てられた歯の痛み。
「…ぁアッ…!!」
熱い、
身体、が
熱くて、
もっと分からなくなるくらい…
眠りの恐怖も、
お前が誰なのかも
俺が誰なのかも
分からなくなるくらい!

仰け反って震えた俺の身体。
高い息と共に微かな悲鳴。
最高潮の熱さに、強く目を閉じた。

「…はぁ…ッ、は…」
息を切らしてる俺の顔を、セイバーが覗きこむ。
まだ、足りねー…
お前自身が俺に入って滅茶苦茶になるまで…
俺の顔を見たセイバーがニヤリと笑うのを見て、
身体にゾクリとした快感が走る。

ゆっくりと俺の唇にキス。
分かってらぁ。
その口ン中。
一杯、なんだろ?
頭を掴まれて、軽く反らされて。
…飲め、ッてのかよ…

思わず口を閉じると、空いたほうの手で腿を叩かれた。

何に、なのか
わからねぇけど、観念して。
俺の吐き出した欲望を自分で受けとめる。
柔らかい咽喉の粘膜を自分自身に犯されて、
飲み下す感触と、ヤツの舌から糸を引く粘液の跡
「ン…く……は、ぁッ…」
「イイ子だ、良く出来たな…?」
受けつけないのが当たり前、の言葉にさえ、
脳が反抗の指示を出さないから。
どーでもいいから。
なんかこう、恥とか外聞とかってのが無くなって。
いつもだって対してねぇけど。

ただ違うのは。

抱いて下さい

なんて言う、女々しい気持ちで一杯の壊れた俺がいるってコト。
クソ…
風邪のせいじゃなきゃ、こんな牙の抜けたような情けねぇこと。
するわけねぇけど。

どうしてだろう、
ソレが情けないコトだとこれっぽっちも思えなかった。
ああ、たぶん、熱の所為だ、壊れちまったんだ俺。

セイバーの吐き出したモンは皆身体の中で受けとめて。
熱くなる為だけにすがりついた。
無意識に。
我に返るなんてことは無く。
ただ眠りから、逃れる為だけに…






「??????!」
すっげー−−−−ウルセェ音に。
眉をしかめて目を開けた。
なんだこの音。
真横から…
見ると、セイバーのやつが仰向けでまるで俺のヒモみてぇに寝てやがった。
そう、このうるせー音は、こいつのイビキ!
む、っと来て、鼻をつまむ。
「……」
「……。」
「…」
「?」
ガバー!と飛び起きたセイバーが俺をくみ伏して、拳を振り上げて!
ひえー!!!

目が、本気じゃねぇか!

と思ったら。
そのまま、俺の上にボフンと落ちてきた。
「ぐえ…」
押しつぶされて、思わず妙な声が出る。
とろんとした目でセイバーが俺を見る。

…。
そっか、
俺、眠ったのか。
あんなに嫌がってたのに。

目を開いたらあったのは、違う世界ではなくて、いかついオッサンだったけど。
まぁ、案外現実なんて、こんな些細なモンで。
そんなモン怖がってた自分が妙に恥ずかしくなったから。
セイバーの耳元で一言
「ばーか」
と、言ってみた。

ボーっとしてた頭はまだそのまんまだったけど。

もう一度、眠ろうかと思ったんだ。
そう、別に起きた時に何があっても怖かねぇ。

なんだか、そんな気がしたから。
ソレが俺を束縛するものであったとしても。
耐え切れないほどの自由であったとしても。



目を閉じて、そう、目が覚めればきっとまた…