なんでだよ。なんで俺はむっとしてんだよ。
夜の繁華街で山崎の姿を見つけた。
キレーな女が一緒だった。
妹?んなわけあるか。似てねぇ。似てたら怖い。
ソレよりも、なんで俺はそのあとをつけてるわけ?
不意に思いついた考えは。
アノ時。写真でもなんでも、
証拠を残しておけば良かったんだ、と言う事。
俺の下で乱れていたあの姿が今俺の手の中に証拠としてあれば良かったんだ。
って?え?俺何考えてんだ。
俺は変態かっての。
女が山崎に寄り添うように、ついて行く。
山崎が「どこ吹く風」な様子なのが、見ていて何とか譲歩できる部分で。
二人が宝石店に入る。
俺は入らない。
って、ジーンズに破れた袖のシャツ。
一見して金のなさそうな俺がそんなところのこのこ入れるかっての!
羨ましい訳じゃない。住む世界が違うからな。
そもそもあんな暗い世界、住みたかない。
あんな人を傷つけて笑っていられるような世界にいる奴は許せない。
だから山崎も許せない。
だから俺はあとをつけても悪くない。
……どんな論理だ。自分で自分に突っ込みをいれる。
宝石店横の植え込みにあるベンチにこしかける。
山崎は女に宝石でも買ってやるんだろう。
そんで、そのままどっか行って。そんで女抱いて。
抱くだけ抱いたらそのままなんだろう。いいご身分だよな。
うらやましいってわけじゃねぇって言ってるだろ!?
うらやましいものか。俺が欲しいのがそもそもそっちじゃない。

グダグダと一人でしらふでクダを巻く。
ベンチの上で一人でごねる。
秋口のちょっと肌寒い風。
なんで俺は山崎追っかけてこんな思いしてるんだ?
バカバカしー…帰ろう。絶対帰る、もう帰る。
地面に大きな光とシルエットが落ちる。
店の扉が開いて、どうやら用を済ませて出てきたらしかった。
女は無口で。
山崎も無口だった。
不意に植え込みの影に隠れる俺。
マジでストーカー?いや、いや、そんなんじゃない。
多分…。

前を歩いて行く二人の会話が途切れ途切れに聞こえる。
くだらない会話。
どこの店のホステスは対して良くねぇとか。
女抱くならホテルよりマンションだとか。
ソレに同意している女。なにもんだ。
前方から顔を覗きこみたい、けどそんなこと出来る訳ない。
焦れったい。
レイトショーのやっている映画館の前で二人が立ち止まる。
女が腕を引き、山崎が吸いこまれる。
ちょっと待て!俺も入るべきか?
……昔の映画をやっている映画館。
やっているのはホラーとラブロマンスの二本立てという奇妙な組み合わせ。
俺はホラーはいいけど、ラブロマンスは…照れくさくて見られない。
山崎だってそんなタイプだ。
ラブロマンスの最中にどうでもいいチャチャをいれて
ぶち壊しにして笑っている、そんなヤツだ。
映画館の前で立ち尽くす。
入るべきが入らざるべきか、ソレが問題だ。
うむ。
鷹揚に頷いてみせる。
いや、頷いただけで意味はない…イイじゃん別に…パニくってんだよ。
女と山崎はとうに姿が見えない。
もしかしたら、仲良く座っていちゃいちゃでもしているのかもしれない。
……馬鹿馬鹿しい!
「やってらんねー」
呟いてきびすを…かえ…
「なにが」
振り向いた先にあった、小馬鹿にしたような顔に仰天してすっ飛びそうになる!!
「山崎ぃ?!」
「ツケ方がド素人なんだよ、バァカ」
馬鹿にされている、俺でもソレくらい分かるぞ!
ばれてたのか…俺は恥ずかしい。かなり恥ずかしいヤツだ。
「別に…暇だったから遊んでただけだ」
「へぇ。最近のアメリカじゃ探偵ごっこが流行りかよ」
「うっせぇ」
「イイ女だろ?」
「……ああ」
聞かれて、答える。
確かにイイ女だったよ。だからなんだってんだよ。
「気に入ったなら貸してやろうか?まぁ一筋縄じゃいかねぇと思うがな…」
「確かにそう思うよ」
「わかるのかよ、お前に」
「一筋縄じゃいかねぇよなぁ…頑固だしよ、
 カッコ付けで確かにカッコイイし根性腐ってるしキレてるし」
「ちょっと待て誰の事だ」
山崎が俺の顔を睨み付けながら覗きこむ.
あんまり近づくとキスするぞ。したくなるぞ。
「んで、どうする?抱きてぇなら持って行け。勝手にしな。」
「勝手にするよ。」
したくなるぞって言ってんのに。
って、言葉にはしてないけど、何度も心で言ったからな。
何度も注意したからな。心で。
だから、こんなに近くにいたお前が悪いんだからな。
山崎の腕が振りあがるのを横目で捉えて、奪った唇から勿体無いけど顔をそらす。
「何しやがる!脳ミソ沸いてんのかテメェ」
身体を沈めて、空打った腕が戻るのを確認してから立ちあがる。
「勝手にしろって言うから。」
「俺じゃねぇ、女だ。」
「わかってるよ」
「わかってねぇ。ド阿呆が」
ド阿呆だよ。だから関係ねぇ。
もう一度唇を奪う。
口付けたまま、頭を抱え込んで引き離せないようにしがみつく。
さすがの山崎も慌てたらしい。
だってこんな公共の目があるところで。
しかも繁華街。知り合いが見たらあとでなにを言われるか。
噛まれるのは嫌だから舌は入れない。
だからその舌を吸いこんで俺の口の中に引き入れて舐め取ってやった。
山崎の息が不意に詰ったように吸いこまれる。
頬をエラい力でつねられて、仕方なく離れる。
「……つくづく…アメリカ人ってのはキスが好きだな」
「誘ってんだ、誘われろよ」
俺の言葉に二つ返事で同意してくれる。
女はどうするんだろう。
ちょっとだけ気になったが、そのまま山崎とソコを離れた。

かすかに酒の匂いがする山崎は、
マンションの一室に俺を引き入れると、
俺を置いて勝手にシャワーを浴びに行った。
水の音。
アイツがシャワー浴びてるのなんか想像つかない。
風呂はいって、うへーとか言ってそうじゃん。
いや、悪いとは思うけど。そう言うイメージが…
どんなんだろう。どこに雨を当てているんだろう。
……どんどん俺は変態になっていくらしい。
いや、普通の衝動だ。興味だ。人間コレがなければ成長しない。興味だ。
シャワーの音が間近で聞こえる。
山崎は殆ど動かずに、水をただ浴びているらしかった。
おそらくもう。ヤツも俺に気づいているはずだ。
いや、意外と気づいていないかも…水の音ってのは結構大きい。
それでいて、うるさくない。

そっとバスルームの扉をあけると、
湯気に混じってぼやけた身体の線がかすかに見える。
傷と、刺青と。
引き締った肉体と。
俺は鍛えている、努力して俺は強くあろうとしている。
山崎もそうなんだろうか。あの筋肉はそれなりの結果なのだろうか。
山崎はシャワーに向かって見上げるような姿勢をとっていた。
その目だけが、俺を見る。
元々綺麗な黒髪だったろうと思われる痛んだ金髪。
銀色がかった金髪。
いつもきっちりと上げられているその髪が、
水に濡れてその視界を邪魔している。
「なんだ…覗きか」
「なんとなくな」
「俺のどこに興味がある。足の刺青なら知ってるだろぅが」
山崎のうち腿から足先にかけて。
引き千切れそうな蛇が絡みついている。
それは知っている。其処も雨に濡れている。
山崎と雨の行為の邪魔をしているような。そんな気分にさえなる。
雨に抱かれる身体。
隅々まで、柔らかく愛撫する優しい雨。
ヤバイ、俺の想像力は何かこう、危ない方向へ行っている。
そもそも、コイツに興奮を覚える事自体妙なんだ。
なんで俺が山崎を抱きたくなるんだ、本当だ、ありえない話だ。
俺よりも自由で勝手で楽しそうで強いくせに。そのクセに誰にもすがろうとしない。
そう言うヤツをさ。すがらせてみたいじゃない。
自分の物にしてみたくなるじゃない?手に入らないとなるとなおさら。
「なんだよ…いい加減にしねぇと…」
「見せ付けるから。焦れてるんだ」
「なにが」
「お前が水と愛し合ってるみたいで妬ける」
はぁ?山崎が素っ頓狂な声を出す。
こう言うとき、コイツはいつも俺を覗きこむ。
目を読むクセがあるのかもしれないな。と思う。
だから、わざと目を伏せる。
「抱かせてくれるんだろ?そこでイイのか?」
そのまま、床を見たまま問いかける。
水の流れるタイルの床。
1度撫でた水はもう一度撫でることをかなわない。
上着を無造作に脱ぎ捨てる。濡れるのもかまわずジーンズのまま。
水を踏みつける。
弾かれて俺の足にまとわりつく。
山崎の手を掴んで、引き寄せる。
そう、一筋縄じゃ行かない。


床が濡れる、と文句をたれる山崎をそのまま引っ張ってくる。
今度はベッドが濡れる、と俺をゴツゴツと小突く。
そう言いながら、その片手が空調のリモコンをいじる。
乾いた暖かい風。
ベッドの上に引き上げて、そこに倒れこませて馬乗りになる。
開きかけた口が何か言う前に、人差し指で唇を押さえる。
自分の唇を確認する様に動いた目が、意外と黒目がちなのを知る。
ぶっ飛んでるときのコイツはもっと蛇のような…そんな目をしていた筈。
「髪。」
「あ?」
「意外と長いんだな」
「テメェほどじゃねぇ」
一番長い前髪は頬にかかるくらいまである。
乱れた後の髪みたいで。誘っているように思えて仕方ない。
でも多分そんな事はない。
わかってるさ。
いーんだ、コイツは女抱きたがるし。
俺は単なる欲しがり屋で、相手してくれてるだけなんだ、コイツは。
本当はあんなイイ女抱きたいんだ。
俺のモンにはならねぇんだよな…多分永遠に。
コイツは自由で、いつも自由で。
俺はジーンズの後ろポケットに手を伸ばす。
山崎の手を掴んで、頬に顔を寄せる。
山崎から見えないように、手を動かして。
誘導されるその腕に緊張しながら。もうすぐ。
カシャン。
金属音に、山崎の目が睨むように開く。
「テメェ…妙に大人しいから妙だとは思ったんだ…」
「手錠ってさ…結構どこでも手にはいるもんだよな…」
「外せ」
「いやだ」
「外せってんだよ」

山崎の両手がベッドに繋がれて動かなくなる。動かなくさせたのは俺だけど。
「テメェはこう言うやり方が好きなのか?普通じゃねぇぞ」
「普通じゃなくてもイイ」
「俺は面倒だ。自由じゃねぇのは嫌いだ。外せ。」
「いやだ」
「いい加減に…」
怒りか、呆れたのか。俺を下から見上げる目がスッと細まる。
色んな言葉が頭を駆け巡る。
強姦。蹂躙。拘束。支配。手中。
どれだろうとかまわない。
多分…俺はせめて、手に入れたと勘違いしたい。だから、手に入れたフリをしたい。
「このまま抱く。嫌とは言わせない」
「おいテリー…なんかあったのかよ?オイ?お前随分勝手だぜ…ッ」
言葉の最後に息を吸うのが聞こえた。
俺が下腹部に口付けたからだ。
無理だと知っていて、引き千切るように手錠に逆らう腕。
手錠の跡が手首に線を引く。赤い線を引く。
ソレが俺を煽る。
山崎を乱すためだけに、没頭する。手錠の音。耐えるような喘ぎ声。
「や…めろ…ッ」
俺が吸い上げると、ビクンと反応して顔をそむける。
女に抱かれてもそんな声出すのか?
俺は多分嫉妬してる。多分じゃない、確実に。
俺のモンにしたい。
誰のものにもなろうとしない複雑な身体を
一纏めに出来るのは快楽だけなんじゃないかと思ったから。
だからもっと乱したい。
何度も咥えこむ。
解き放って、もう一度。喉の奥に当たるくらい強く嬲る。
「は…ッ…あ…」
声を殺して声にならない声に変えてしまう。
身体が跳ねるたびに、手錠の鎖がその身体の拘束を知らせる。
恥ずかしくても隠せないように。
閉じようとする足を無理に開いて押さえ込む。
舌を後ろに滑らせて。
俺に入れられたくて堪らない気持ちに。身体に。コレを変えてしまいたい。
指をねじ込んで内壁を擦る。
高く息を吸いこむ身体が俺を求めるように捩れる。
「まだ…まだ足りない…」
「テ、メェ…は…なんで…く…ッ…こう…。」
「なんだよ、喋れてねぇよ」
「極端だってんだ…よぉぉッ!ッ…はぁッ!!」
言葉を発するのを読んで、それにあわせて指を奥までねじ込んでやる。
山崎の表情が乱れる。俺に見せないように顔をそらす。
その動きがまた俺を煽るんだよ。馬鹿だなぁ…。
指に代えて自分を突き入れる。
手錠の元で強張る指が、何かを掴もうと震えている。
物凄く中に入りたかったから。
だから、俺はかなりヤバイ状態だった。
山崎の中に自分を解き放ちたくて仕方がない。
中に、絶対に中に。ぶちまけてやる、犯してやる、身体中。
嫉妬しちまった自分が恥ずかしい。でも欲しいモンは欲しい。
強引だとはおもうけど。でも。
でも。擦り上げられる感覚に…その反省は簡単に押し流されてしまう。
「クソ…なんで手にはいんねぇんだよ…ッ!!」
苛立ちを一緒にぶつける。支配したい。支配できないわかってる。
支配されたら、こいつはもう山崎でなくなってしまう。わかってるけど支配したい。
馬鹿だな、俺は。
乱れる山崎に獰猛に衝動をぶつけながら。
完璧にこの瞳を曇らせたい。
一瞬、一瞬。俺を見据える一瞬の猛獣の瞳。
乱れきってくれない。
俺のテクニックじゃ無理?元々そんなモンない。
何故、俺に抱かれてくれるんだろう。不意にそっちが気になった。
山崎の足が、俺の身体に絡みつく。
「来いよ…イイから…中にぶちまけな…ッ」
ばれてた。
諦めと、その包容力と、締め上げ、痙攣する快感に包まれる。
深く突き入れて衝動的に首筋に噛みつく。
駄目だ。俺、もう。
まだ、足りない…もっと欲しいよ。だって。
だって、あったけぇんだもん。



荒い息は山崎のほうから静まる。
俺の息は戸惑ったまま。深く息を吸いこんで、無理に呼吸を戻す。
山崎の手首が赤くにじんでいた。
痛そうだ…悪いことしたなぁ…でもこの姿勢ってやっぱりそそる…
俺って酷い?
でも、自由なヤツが拘束されてるって姿って…
強いヤツがあらがえない姿って…
なんで、こんなにそそるんだろう?多分俺だけだ。俺の趣味なんだ多分。
だからコイツを抱きたいんだ、そうだ、そうに決めた。面倒な事はもうイイや。
「いい加減解け」
「…もうちょっと見させて」
「……コレじゃ飯も食えねぇ」
「食わせてやるよ。」
「冗談じゃねぇ願い下げだ」
「抱くつもりだったのか?あの女。」
俺の問いに、山崎が止まる。
実は一番聞きたかった事。
勢いでやっと言った。
ころころ変わる表情が、呆れた表情で止まる。
な、なんでそんな顔…。
「抱くかあんなモン。」
え?
頭の中でその台詞をよく噛み締める。
なんですか?聞き違い?いや違う…
「女専だアイツは」

ぐったり。
身体中の力が抜けて。
山崎が鼻で笑う。
悔しいから、治まりかけたばかりの其処をなぞり上げてやる。
声も上げずに、驚いたように身体を強張らせる。
上がった顎を掴んで、口付ける。
俺の口の中に勝手に割りこんでくる舌。
拘束されてるヤツに口腔を侵される俺。

安心して、本当に力が抜ける。



拘束を解いたら、山崎に殴られると思った。
だから、結構歯を食いしばっていた。
緊張もしてたし、覚悟もしていた。



山崎は俺の頭にポンと手を置いただけだった。




「しょうがねぇな。」
そう言って。
「しょうがないかな?」
「しょうがねぇだろ。」
「そう言うもんか?」
「今は面倒だ…後でお礼はするぜ。覚悟しときな」



蛇の目が、やっと俺を見た。



「ところで山崎」
「なんだ?」
「女専ってなに」




殴られた。





無性に嬉しかった、コイツはやっぱり山崎だ。





FIN
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馬鹿過ぎる…
そんなけ…。