「なぁ…」
小声が耳元に囁く。
俺は、なにがなんだかワケがわからずに、その声に喉を引きつらせた。

俺の体の上に、裸体をさらした山崎が見せ付けるようにのしかかっているんだ。

信じられない。
山崎が、こんなに積極的だなんて、何かあったに違いない。
「山崎…?」
問いかけても、軽いため息が帰ってくるだけ。
しかも、耳元で。

た、
絶えられるわけが無い!

「…−−!」

ガバ、と起き上がって体をつかもうとした途端、
山崎が俺の頭を手刀でゴチン。
「あた」
「動くなよ」
「…え?」
「ウゴクナ、っての、イイじゃねぇのたまにはよ」

たまには、って…

どういうことなんだー!?!?

俺の慌てふためく様子を鼻で笑って、ベッドから起き立ての肌に熱い肌が重なる。

「山崎…?なにかあったのか?」
「なんもねーよ、いいだろ、俺がその気になるときだってあるんだ」
「…」

そういわれてみればそうか。
たしかに、いつも俺から仕掛けるセックス、山崎が仕掛けたくなる時だってあっておかしくは無い。
しかし、こんな状況は初めてだ。
妙に、
やけに、
やたらと。

そそる。

「ったく、元気だよな…」
「…!」

反応しちまってる俺の下半身に体をこすり付けて。
そ、そんなことしたらだな。


「動くなよ?」
「何故だッ」
「…やばい俺も、いいだろ?」

…最高にな。






観念して動かなくなった俺の腕を掴んで。
腹に跨ったまま、俺の指先を自分の口元へ誘導する。
見え隠れする舌先に、腰の奥がズキンと疼く。
…我慢、して、動くなって言ってもだな…

ちゅ、

爪の先をなぞる舌が、唇が、指先をだんだんと咥え込んでいく。
粘膜の感触。
開いたままの目で俺を見ながら。

やけに、煽るじゃねぇか。

密着した下半身に、空いた片方の手を滑り込ませてやる。
「ッ…動くな、ってンじゃ…」
「手持ち無沙汰なんだ、まあイイじゃねぇか」
「…しょーがねぇなぁ」
指を舐める山崎を見ながら。
指先で舌と下腹部とを愛撫して。
「…ん、コレじゃいつもと同じ…」
「違うことがしたかったのか?」

指先を舐め上げて、唾液に濡れた指を指でなぞる。
感触に、思わず指を竦めた。

「キモチイーコトはよ」
「…」
「沢山あるだろ?」
「ああ」
「…一回しかいわねえぞ」
「ん?」
「…お前いつもどーってコトねぇ顔してるだろ」

?そうだったかな?
首をかしげる俺を見て、指先にもう一度舌を這わせて。
そのまま腕のほうまで舐め下ろす。
ゾクリと来て引っ込めかけた腕を掴まれちまって、あわてて山崎を見ると
イイ顔で俺を見てた。
沈んできた山崎に、頬を擦り付けられて、
耳の内側にぬるりとした感触が走って。
「…だから、煽ってるのか?」
「そ」
「後が大変なのはお前だろう?」
「そしたらもっと良くなれんじゃねぇか」

間近の言葉。
山崎の愛撫。
体中を這い回る容赦の無い舌に煽られて、
自分の腕に噛み付いた。

強く目を閉じると、山崎がかすかに笑う声。
「…なにを笑ってる?」
「なんだと思う?」
「…あまり焦らすと泣きをみるぞ」
「焦れてんのはどっちだよ…」

…確かに。

…しかし。
奉仕されているという満足感の奥底で、
何か言いようの無い「照れ」が走るのは何故なんだ?

山崎が、勃ち上がっているソレを、口に含んで軽く歯を立てて
それにしたがって体がこわばる。
いつもの行為と一緒なハズなのに、
どうも、勝手が違うような、何か違和感があるような…
これじゃ、奉仕というより…

「…ッ、山崎!」
「?」
顔を上げた山崎の髪を掴んで。
ぐい、とソコに押し付けた。
「ん、ぐっ!」
「…無理やりだが悪く思うな」
口を開ける山崎の奥底まで、ソレをねじりこんで。
コレくらいじゃなきゃ、なんだか。
なんだか…

恥ずかしくなってくる。

「う、ン」
口元からの音、煽られっぱなしの俺。
煽る山崎と、一人快楽に流されるだけの置いてけぼり



「山崎」
「…う」

根元に手を添えて苦しそうに舌を出して。俺を目で見上げる。

その背中に、爪を立てて軽く引いた。

「ん、ぅ、痛っ!」
「痛いか?」
「…な、にすんだ」
「お前も良くなれ」

顔を上げてる山崎の肩を掴んで腕を引いて。
思い切り持ち上げた。
俺だけ良くなっちまってるだなんて、そりゃ、お前蚊帳の外だなんてそんな顔なんか。
させるわけがねぇだろう?この俺が。

「ちょ、珍しく俺がだな…!」
引っ張り返す腕をさらに引いて、山崎を上から下まで嘗め回すように確かめる。
「な、なんだよ…」
「俺を乱したいか」
「…せーな、自分だけってのは、アレだろ」
「言う割にお前も感じているようだがな?舐めてるだけでどうにかなっちまったか?」

持ち上げた身体が。
胸が深く細かく息をして上下する、
耐えた唇を舌先が湿らせる、
目が潤んで。

「山崎。我慢は身体に毒だぞ?」
「お、オッサン…なんか、目が、恐ぇ」
「んんん?」
「な、なんだよぉ、ちょっ…」
「もっと感じてやるから舐めてみせろ、山崎」




俺を煽りたいなら。




「もっと感じてみせろ…」










「あー!クソー!今度こそ有利だと思ったンによぉ〜!」
「まだまだ甘いな」
シーツを掴んでジタバタ暴れている山崎の頭をボフンと叩いて、笑う。
「俺を乱そうなんざ、百年早いぞ山崎。」
「…〜〜」
ムスっとしてる山崎の頭を撫でると、その手を弾かれた。
「俺だってな、お前気持ちよくしてやりてーのによ」
「お前の身体は充分気持ちがいいぞ?」
頭を撫でるのを諦めて、腰を撫でることにした。
「…ン、ッ、ちょっ、バカ!」
「なんだ?」
「そ、そーやって、俺ばっか」
俺を避けようと逃げる体を掴んで。
確かに、面白い。反応がいいから、もっと感じさせたくなる。
…俺にソレを求めているのか?
思考に釣られて手を止めた瞬間。
腿の内側に這う感触に、身体が飛び上がった。
「な、なにをするっ!?」
「…感じてんじゃん」
「当たり前だ!」
「当たり前?」

きょとんとした顔で。
…いままで、俺が感じてなかったとでも思っていたのか、この男は。
「そ、そっか、そりゃそうだよな」

ソレを確かめるために、俺にけしかけてきたってワケか?

しょうがないヤツめ。
そうだな、それならもっと見せてやっても構わんぞ。
「え!?も、もう、充分…」
「いやいや、今から見せてやる」
見てる余裕があればの話だがな。

ったく、まだまだ子供だな。
お前が感じるところを見て俺は最高に良くなるんだ。

お前の声がすると身体が疼く。
俺の愛撫で濡れる身体で俺の息が乱れてく。
「聞こえるか?」
「…わ、かったよ…」
苦しそうにゆがむ身体をもっと深くまで。
締め付けに俺が一瞬震えたり、
「……気づいたか」
「…そんなこたイイからよぉ…」

深く身体を丸めて。
俺を受け入れるその奥のほうでもっと俺を感じさせてくれ。


まぁ、たまには俺の快楽を確認されるのも、悪くは無いな。
だから、当分の間は教えずに置こう。
俺の身体がいつも絶頂状態にあるってことは。



…結構我慢を重ねているんだからな…現に、今だって…



「我慢、すんな、よ?」



…う。