ご近所ジョジョ物語
第7話・空白
                       

ホルホースが、地面に倒れこむ。
エボニーデビルが背中のナイフを抜くと、そこからまた血が噴出す。
自分の悲鳴と重なる悲鳴。
ミドラーはそれを聞きながら、我に帰る自分に気付いた。
エボニーデビルがデーボの元へ帰る。


   ミドラー:ホルホース・・・ッ・・・・わたしは・・・・っ・・。
        自分の力を・・こう使おう・・。貴方のために使おう。
        それ以外、私には思いつかない!!
        ハイプリエステスゥッ!


叫びと共に、ハイプリエステスがホルホースを包み込む!
駆け寄り、その扉を開く!ミドラーは、自分のスタンドを車に変え、
ホルホースを保護する作戦に出た。
ぐったりしているホルホース。鋼鉄の座席に赤い血が広がる。


   ミドラー:助ける・・・この手で!


爆音と共に走り出すスポーツカー。公園の塀を食らうようにして弾き飛ばし、表へ出る。
ミラーで後ろを見る。追ってくる様子は無い。
最も、あの状態では追って来る気もないだろうが。


   ミドラー:間に合って・・・・。


帰宅ラッシュの合間を、車の形を変えてすり抜けていく。
小さな病院。ミドラーの頼みの綱だ。
もうすぐ、着く。


   ミドラー:ホルホース、意識はあるの?!?
 

呼びかけるが、答えるのはエンジン音だけ。
不安をあおる。
バイパスからそれ、山道へ入る。
畑の多い小さな町。郊外には、小さな自然がある。
5分足らずでそこに着いた。
ハイプリエステスでホルホースを擁護したまま、その門に駆け込む。


  ミドラー:先生ッ!!いらっしゃいますか?!


いなければ、万事休すだ・・・
ややあって・・・・
のそりと姿をあらわしたのは、50代半ばの外人。
優しい目をしているが、その瞳はハイプリエステスを見逃してはいない。
スタンドが見える・・・・彼もスタンド使いであった。


    外人:大声でよばんでも聞こえるわい。
  ミドラー:ジョセフ先生!
  ジョセフ:急患じゃな?しかしタイミングが悪い・・
  ミドラー:え・・・っ?!
  ジョセフ:ウチはベッドが一つしかなくてな、それがうまっとるんだわ。
  ミドラー:・・・・お・・お願いします・・ッ!1
  ジョセフ:ゆかで手術になるが、良いかね?
  ミドラー:はい!


運び込まれるホルホース。血の気が無い。


  ジョセフ:・・・・アンタ何型?
  ミドラー:A・・型です・・。
  ジョセフ:・・・・そうか・・・
  ミドラー:血が、足らないんですか?!
  ジョセフ:仕方ない、ワシのを使うか!
  ミドラー:・・・・?!


ジョセフ医師は、そう言うが早いか、自分の鎖骨あたりに針を刺す。
反対側をホルホースの腕にさし入れ、メモリを調節しながら、メスの用意を始める。
片手で、ついでのように麻酔をかける。


  ミドラー:・・せ・・先生?!
  ジョセフ:どうした?
  ミドラー:先生が輸血したら・・・え・・・?どう言う・・??
  

おろおろするミドラーを押しやりながら、医師はにやりと笑った。


  ジョセフ:引きうけたからには、ワシはベストを尽くす。OK?
  ミドラー:・・・・っ・・・。
  ジョセフ:さて、ちょいと手伝ってくれるか?
       このボンベをこいつの口に当てていてくれ。


携帯酸素吸入器を、ホルホースの口に当てる。
息をしているのが分かるのが今の唯一の救いか。


しんとした部屋に、金属の触れ合う音が響く。
聞きなれた音なのに、耳に痛い。
ホルホースの身体に、メスが埋まるのを見られない。


  ジョセフ:・・・・深くは、無いな・・。
       内蔵は・・・そうか・・。


そうつぶやいて、傷口を閉じ始める。
顔をそむけるミドラー。ホルホースの眉がゆがんだのが見えたような気がしたからだ。
ジョセフの息が深くなる。
顔を見ると、少々青ざめている。


  ミドラー:・・・・せ・・・先生・・・
  ジョセフ:手術中はお喋り無し。
  

短時間でその手術は終わった。
もっともミドラーにはかなり長い時間に感じられたが。
ジョセフが、ソファーに横たわっている。
ミドラーはホルホースの口に吸入器を当てたまま。
ホルホースが、時折、深く息をする。
そのたびにどきりとする。
このまま、息をしなくなってしまうんじゃないかと思う。


  ミドラー:ホルホース・・。
 

ジョセフが不意に声をかける。声は疲労しているが、明るい声。


  ジョセフ:安心しろぃ。そいつは死にやせん。ちょいと血が足りなかっただけじゃ。
       傷もたいした事はないからな?まあ、すぐに直るじゃろう。
       もう、酸素もはずして良いじゃろう。
  ミドラー:そうなんですか!よかった。よかったー!!!
  ジョセフ:はっはっは、若いのォー?!
       さて、(起き上がって)向こうのやつを見て来るかな。
  ミドラー:向こうのヤツ?
  ジョセフ:ああ。ベッドを占領している男さ。
  ミドラー:・・・・すみません、無理言って・・。
  ジョセフ:あんたの顔見たら駄目だとは言えなかったなぁ、必死で、な?
  ミドラー:(赤くなる)そ・・そんな・・
  ジョセフ:あっちの男は、は精神的にも肉体的にも参ってる。
       まあ、それと比べりゃ軽いほうさな。落ち着いていてもらって平気じゃぞ。
  ミドラー:はい・・・・有り難うございます・・!

それに笑って答えると、ジョセフ医師は奥の部屋へ入っていった。


ホルホースが、小さく息をしている。それに合わせて息をしてみる。
また、誰もいなくなるかと思った。
よかった、よかった・・本当に・・・。
ミドラーが、小さく嗚咽を始める。
時間も何も気にならなかった。
人の声がこんなにも聞きたいと思ったことはなかった。


  ミドラー:・・早く・・聞かせて・・なんでも良いから・声が・・聞きたい・・。


そこだけ時が止まっている様だった。
空白の身体、精神。時間。見えているものがすべて。
安心したのか、座ったまま、ゆっくりと目を閉じるミドラー。
静かな、空間が、すぎていく。
                                          
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