★三ツ時ニ闇ノ唐繰リ★ |
一服中の突然の邪魔者。 コンビニエンスストアの裏側で。 ぼさっと座りこんでタバコふかしてた俺の目の前に、筋肉の張った足が立った。 見上げると。 「ボンチュー!?て、テメェなん…!」 「別に、見つけたから声かけただけだ。邪魔したな」 それだけ言って、踵を返す。 そしてもう1度振り向いて。 「ボタンつったな」 「さっさと帰れ、用はねぇんだろうが」 「…まぁ…イイか…俺には関係ない話だからな、お前がどうなろうと」 「…え?」 もう1度踵を返したやつの足に、思わず手をかけた。 「あぶねぇな!何しやがる!」 「…言いかけて途中でおサラバってのは随分と悪どいんじゃねぇか?」 ボンチューが、笑った。 なんで、俺が笑われなきゃなんないの。 むっとした風を読み取られて、ソレにまた笑われる。 むかついた。もうイイや。 「もーいい。さっさとお家にかえんな、ド阿呆」 「聞きたいんだろう?無理するな?」 「うるせぇ!性格悪ぃヤツだな!なんでこんなヤツにマミーさんは、あーもうッ!」 立ちあがってボンチューの肩を思いきり突く。 その手を引かれて、つんのめったのは俺の方だった。 「うわ…」 「そんなんだから、狙われんだ」 「…だから、一体何がなんなんだってんだよ!」 「お前の出入りしてるゲーセン、あんだろ。顔出すなよ」 ボンチューはそれだけ言って。 そのまま、本当に俺から離れて行った。 咥えていた煙草を咥えつづける力を失って、 呆然と下唇に引っかかる、煙草の煙にいぶされて一人。 「…は?」 行くなよ、って、どう言う意味だ? 行けって、ことか? 行きゃ分かるか。 そうだな。 そうだよな、行けば分かるんだろ。 ったく、なんなんだよ。強さ見せつけるだけ見せつけて、カッコイイねぇ。 なんだっての。 悪かったな、お前より弱くて。 煙草を踏み潰して、その足でそのまま繁華街へ向かう。 行けって言ったんだよな。 「よぉ」 ゲーセンの辺りをうろうろする俺の背後から声がする。 振り向いても、知った顔が見当たらない。 「?」 「俺だよ。しらねぇだろうがなぁ〜」 そのまま、一発殴られた。 吹っ飛んだ俺に、歩道の通行人が悲鳴を上げる。 ど、どう言うこと? これって、そのまんまの意味だったってわけ?! ココに来るなって、そのまんま?! ひねれよ!少しはっ! あの…ボンチューの単細胞野郎が…ッ!!! 立ちあがろうとして、足に激痛を感じる。 吹っ飛ばされた時、ひねったらしい。 「…ち…ッ」 もう1度殴りかかってきたその男に、もう片方の足で蹴りを入れた。 その足を掴まれて、腹に踏み込まれる。 「げ……」 負ける気はしねぇ。けど、日本刀くらい、いや、せめてなにか棒状の物でももってくればよかった。間合いが掴みきれない。 腹にストンピングをかまされて、何度か咳込む。 どうも、なにかが違う。 「おいっ!」 声に、振り向きざま一瞬何かの動きを見つけて空を仰ぐと。 「なんだってんだよ…クソっ!」 俺が体勢を整えなおしたのは、 手がソレを掴んで男の首筋に既に叩きこんだ…後だった。 倒れた男の顔にやっぱり覚えがない。 ざわざわと唸る観衆のざわめきの中、声の主を探して。 不意に腕を掴まれて、その方…斜め方向にもう1度それを叩き込もうとする。 「逃げるぞ!」 「へ?!」 攻撃をしようとした弾みと、腕を引かれた力によろめいて、その主に抱きつく。 皮の匂い。 「…走れってんだよ!」 「…ボ、ボ、ボンチュー!?な…」 「早く!」 チラと目に写った制服に、慌ててその場を去る。 無論凶器は離さねぇよ。 かって知ったる路地裏の娼婦街。 女衒の囃子立てる声に、罵倒愚言を返して走り出す。 「いくなって行っただろうが!」 「アレじゃ行けッて言ってるのと同じだ! 今日は行くつもりなんかそもそもなかったんだ、それをお前がなッ!」 「知るか!少しは感謝しろ!」 …… ちょっとキツイ運動の後の、息切れをまとめなおして。 息の合間に、戯言で会話する。 そりゃ、感謝はしてるよ。 俺を睨みつけて、アキレタ顔をして。 なんだよ、このガキ。 手に持った棒切れを見ると、鉄パイプの様相。 叩きこんだ部分に、くぼみが出来ていた。 「て、鉄パイプだって分かってりゃもッと弱く…」 「したか?」 「いいや」 「だろうな」 見透かした様に言われて、また腹が立つ。 本当になんなんだ、この男は。 感謝の気持ちもおこらねぇッての。 逃げきった俺達がお邪魔していたのは、無論の場所で。 近場の小学校の校舎裏、体育館の並びのウサギ小屋の手前。 お月さんが、夕方の空に白んじて出ていた。 「感謝してても礼はいわねぇぞ、頼んでねぇんだからな」 「あーそうかい。」 捨て台詞に鷹揚に返されて、馬鹿馬鹿しくなって立ちあがる。 がくん。 「ボタン?」 「…痛ぇ……え?あ、いや、なんでも…」 一瞬力が抜けたのは、そう、あの足首。 捻挫だ?気合でなんとかならぁ。 力が抜けたのを悟られない様に、出来るだけ平静を装ってそこから歩き出す。 ズキン。 「…ッ」 腫れる、かな。こりゃ… ずるずると引きずって。 校舎の角を曲がって、裏手に回る。 ココは…確か、科学室の裏だっけな。 振り向いて、ボンチューがいないのを確認して。 痛む足を、引きずる。 「…不意打ちってのは、これだから嫌いだ… やっぱ俺には待ち伏せとかそう言う知能的な…」 独り言で頷く。 少しでも気がまぎれるだろ。 ぽくん。 微かな音に気づいて。 ドキリとする。 そう言えば、この辺って、確か七不思議とか… ドキドキドキドキ。 実は幽霊とか怖いだなんて、そんなこと、何があってもいわねぇぞ。 ザワ。 木が、風に揺れる。 熱を持ってきた足に気を取られた。 不意に身体が軽くなる。 「…ひゃッ?!!??!」 「おいおい、男らしくねぇな」 ボンチューの腕が、俺の身体を持ち上げていた。 慌てて、ジタバタする。 「は、離せッ!」 でも落とさないでッ、痛いから。ゆっくり置いて〜… なに?ヘタレだ?うるせぇ。 俺だって驚くことくらいあるの!しかもココは、アレだ、怖いんだぞ。 「もしかして、信じてるのか?あの話。」 「…なんだよ」 「科学室の幽霊の話。薬品で溶けた身体のただれた幽霊が、 肌を舐めにやってくる…この皮膚を頂戴ぃぃいぃぃぃ」 「……ッ!」 また、ボンチューが俺を見て笑った。 なんか、コイツは俺を見てよく笑う。 むすっとしてる印象が強かったんだがな。 でも、まぁこいつが笑ってる時は、大概俺がアホな時。 それって微妙に失礼な奴なのでは。 ■三ツ時ニ闇ノ唐繰リ・2 |