★三ツ時ニ闇ノ唐繰リ★

身体を下ろされて、地面にやっと足がつく。
と。
気が殺がれていたせいだ。
忘れていた足の痛みが激痛になって身体を縦に走りぬけた。
半身の力が抜けて、座りこむ。
「おいおい、冗談だろ?腰抜けたのか?」
「ち、違うッ!ほっとけ、さっさと帰れ!」
「へぇ。あ、そう。んじゃ置いてくぞ。
 明日になったら身体中の皮膚はがれて惨殺死体…」
「…待、待てっ置いてくなっ!」
もう、そのての話は勘弁願い。
ソレでも立ちあがれない俺に、まだまだイタズラそうな表情を崩さずに。
「ああッ!後ろに!」
「な、なにっ!?なに?!ちょ、ちょっと」
おたつく俺を構っては笑う。
安息が、欲しいよう。
不意に目の前が暗闇。
「?!?!?!」
単なるパニック状態、俺に取っちゃ「単なる…」ですまない文句。
慌てて目を塞ぐ何かに手をかけようとすると、その手を掴まれて、後ろにねじられる。
「ボンチューだろ?!ちょっと、なにすんだ、離しやがれ!おいっ!」
話すよりも先に、声聞かせて…
俺はかなりビビッてる。
しょうがないだろ苦手なんだ!
だけど、ボンチューの声が聞こえない。
唯一手に感じた指が温かかったのが、救いだったのに。
後ろ手に縛られて、外れないそれにもがく。
「おい…よせよ、冗談だろ!?」
かさり。
ふさがれた視覚の変わりに、聴覚が強くなる。
足音?だよな。
かさり。かさり。
ゆっくりとした、足音。
衣擦れの音。
不意に近くに何かを感じて、悲鳴をこらえる。
頬に当たる冷たい感触。
冷たい、なんで?なんで冷たい!?
「…ッひ……ウソ…だろ…」
その冷たいものが、頬から首筋に移動する。
これは人間の感触じゃない。で、でもなんで?
ちょっと、ボンチューのイタズラなんだろ?分かってんだぞ。本当だぞ!
ペタン。濡れた指が、俺の首筋に当たって。
「…ぃ…ッ…!!!!!」
頭の中が既に蒼白。考えると言うより先に、感じるこの状態。
指が触れるその恐怖だけに捕らわれて、後先見えず、想像もつかず。
ただただ、硬直するばかり。
濡れた指は、なんとなく暖かく、それでいてやはり冷たい。
それが俺の首を滑って。
息のような声が、微かに聞こえた。
「…皮膚を…」
「−−−−−!!」
もう駄目、身体が動かない。
立ちあがって逃げることもできない。足が酷く痛む。
眩暈がしそうな混乱に、拍車をかけるぬめった感触。
『薬品でただれて…』
よみがえるあのボンチューの声。ああ、せめて思い出さなければもう少しは…!
違う、絶対、絶対これは、イタズラなのに、
なんで、こんなに、「もしかしたら」って思っちゃうんだ。
ボンチューなら、声出して…
「ボン…チュー…?な、なんだ、ろ?」
返事はなく。
目の前にある何かのイメージだけが先行して、他がすっかり感じられない。
頬を伝う、とろけた感触。
首筋へ伝い、軽く羽織っただけのシャツの前が開かれて潜り込む。
「…ッ、たの…頼むから…声聞かせて…ッ!」
それでも、声はなくて。
ほくそえんでる筈なんだ。
俺を見て、笑いこらえて、絶対からかわれてるんだ。
だ、だから…
「ひぃ…ッ!!て、テメェ…大概に…しやがれ!」
怒鳴りつけた声も、響くだけ、それがまた、恐怖を煽る。
上半身を、ゆっくりと舐められる。
「…っく…おい、おい…返事…こ、怖い…」

もう、本音を言わなきゃ助からない。
恐怖に痺れた頭がやっとのことでそう判断した。
「怖いんだ、苦手なんだよッ…だ、だから…」
しかし返事がなくて。
さすがに、もう、ピークを超えかけて熱くなる。
その俺を他のトコロへ引っ張って行ったのは、
胸の突起への口付けだった。
「ふぅ…ッ!!?」
跳ねた身体を隠すように丸める。
しつこくいたぶられる其処の感触に、緊張の糸が張り詰める。
「ボンチューだな?!てめぇ、本気で殺すぞぉッ!」
其処を甘噛みされて、含まれて。
突きぬけたのが、快感である事に気づく。
下半身と耳と脳天とに分かれた快感が、
そこでジリジリ残って火種となり始める。
見えない恐怖と、動けない恐怖、それに拍車をかける無音と
そしてその恐怖の感覚を麻痺させながらひろがる快感。
「…ん…ッは……ぁ」
俺の声が、簡単に艶を帯びた。
色のついた声が戻ることは、この状況ではもうありえない。

酷く、感じて。自分がこんなに敏感だったことに、恨みを覚えるほどに。
剥がされて全裸で、くまなく舌に犯される。
ボンチューなのか、もうそれさえ既にわからない。自信がない。
これは、誰なんだ?何なんだ。
「…あ、あ…ッ!!!ん…は、はぁッ…」
内腿に噛みつかれて声が上がる。
俺は今、誰に犯されてる?
指を後ろにあてがわれ、
そのまま押し込むように指しこまれて…
「や、入れんな…ッあ、あ…ッ」
俺の内壁を絡みつかせながら、奥の方まで探られる。
粘膜を擦る指の先が、俺の跳ねる場所を探し当てて。
其処を、いたぶるように責めつづける。
当の俺はもう既に声なんか出せなくなっていて。
息がかすかに声に近い音を出せるだけ。
「…ぁ…ッ…んぅ……!!ひ…ッあ…」
後ろの腕が擦れて痛い。
やっと指を抜き取られて、身体が元に戻れるかと思ったのに。
俺の背中が天を仰いで。
異常なまでに恥辱的な格好で、腰を持ち上げられた。
腰骨を掴む強い指。

■三ツ時ニ闇ノ唐繰リ・3

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