★3000★
土ぼこりで服がまっ黒になって。
置いて行かれた壊れた単車をボタンがいじり始める。
転がったマミーが空を見上げてて。
俺もその脇に転がってた。
勝也の姿は見えない、追っかけて行ったからなぁ。
まったく、なにしてるんだか。その内へたって戻ってくるだろう。
クク、と笑いがこみ上げる。

「楽しそうだな、おい」

そう言うお前の声も楽しそうじゃないか。
そういうと、当たり前だと言われた。
あー。また、この男は俺を魅了する。


カラカラと、鉄のバケットを運んで。
今日はもうファミリーは解散。
中に入ったボロボロのバット。
俺が引くそのカゴの中を覗きこんで頭を掻くマミー。
二人で、土手の上をほとほとと歩く。
どうしたマミー?
いや、派手にやったなぁと思ってな
マズイのか?
いや別に、又買わせりゃイイか。
誰に?
生徒会に
はぁ?

聞くトコロによると、これはどこかの小学校から持ち出した物らしい。
へへ、と笑いながら俺にカラカラと回しながら鍵を見せる。

「盗んだのか?」
「いや、俺部長だからよ」
「なんの?」
「野球部の」

ええ?!俺の声にマミーが大笑いして、
でも否定しないところ見るとこれは本当なのか?
校舎裏の門から入って、部室の群れらしき場所の横に
小ぢんまりと立っている場所へ向かう。
その鉄製の扉に鍵を刺しこんで当たり前のように開けて、ホレ、と俺をうながす。
中にはいると、ゴムの匂いがした。
ホコリと、ゴムと、カビの匂い。
引きずったカゴが入り口の段差に突っかかって、
思いきり引いたらガコンと音がして、ボールが一つ落ちた。
それをかがんで拾う。
丁度かがんできたマミーの頭にゴチンと額が当たった。

「あだッ」
「あ、すまない…」

慌てて頭をさすってやると、何やってんだ、と払われた。
困って、とにかく微笑み返す。
マミーの手にしたボールが、俺の胸元に飛び込んできて。
慌ててそれを受け取る。
ボールに気を取られた俺の目線の下にマミーの瞳が飛び込んできた。
下から見上げられて、いつでも勝ちを譲らない強い瞳が俺を見透かす。
見透かされる。

「もうちっとよ、楽にしろや、トニー」

え?なん…
俺が、楽に、してないって?
そんな、そんな訳無いじゃ無いか、俺はいつでも自然体で…

「そんなに気使うコトはねぇんだよ、俺等ファミリーなんだからよ」
「…わかっている…それに、気を使ったツモリは…」
「へーへー、そうかい、なら良いんだけどよ、
 勝手に重いモン背おられて潰れられちゃァ俺の面目丸つぶれだからよ」

気、使ってるのは、君のほうじゃないのかい?
扉に後ろ手に手をかけて。
閉めたのは、俺の何がそうさせたんだろうね。
「…なんだ?」
そんな不信そうに俺を見ないでよ。
「どうすれば、楽になれる?」
俺に答えをくれるかい?
「自分を曝しちまえばいい」
それで本当にイイなら、君も曝して欲しいな、って。
そう思ったから、この手がこの扉を閉めたんだね。

「それじゃ、マミーも俺に曝してはくれないか?」
「馬鹿言うなよ、俺はいつも曝してる」
「どこで?」
「ドコでも。」
「つらくない?」
「それが俺が一番好きな自分だから…っと、面倒なこと言わせんなよ」

小突こうとした腕をそっと掴んで。
君を摂り込みたいと思うのは、力を求める人間の当然の行為だね。
キスをしようとしたら軽く頭突きされた。

「あいた」
「何しやがる変態」

呆れ顔で俺を見てる。
そんな顔、しないでよ、俺がどんな気持ちで、
やっと、やっとこうして掴んだって言うのに。
マミー。君の気持ちがわからないよ。

「俺が嫌い?」
「強いヤツは好きだぜ。でも俺は女じゃねぇ、抱かれる意味がどこにある」
「ない、かい?」
「ないね」

冷たく言いはなったマミーの顔がまだ楽しそうに笑っているのを見て。
なんで?
不思議だよ。
なんで、笑っているの?
仕方ない、自分がこんなに見解が狭くなっていただなんて。
そこで始めて気がついて、自分の行為に赤面する。
馬鹿だ、俺は。何をしたんだ、一体。
目の前のマミーが笑う。
あんまり、笑うなよ。
苦しい…から。

「なんで、オメェ俺とやりてぇの?」

積み重ねてあったベースの上に座りこんだ俺に、
体育座りで膝に肘をつき、顎を乗せたマミーの目線が問いかける。
笑顔はなく。
不思議そうな表情がそこにある。
怒っている、訳ではなさそうだが。

「わからない…」
「セックスってのは、支配行為だろ」
「そんなコトはない!」
「んじゃ何よ?愛を確かめ合う行為か?アホくせぇ。
 あんなモンな、イイ思いできりゃそれでいいんだよ」
「イイ思い出来れば、するの?」
「ん〜、まぁ、な…でもよぉ」

トニーお前、俺に入れようと思ってるだろ。
眩暈が、酷くなる。
こんなこと、ズバリ言うヤツがあるか。恥ずかしさでクラクラするよ…
更に追い討ちで。

挿されるなんて、カッコワリィからやだぜ。

ああ、なんて、なんて素っ頓狂なことを言うんだ!
抱かれたくない理由って、もしかしてそれだけ!?
憧れが増幅して、抱きしめて安心させて欲しかっただけ、
ああ、突然本音が出た。
そうか、安心させて欲しいんだ、君に…。
俺を受け入れて許してくれたら、楽になれる、
なんて、虫のイイこと…思ってたのか、俺は…

目の前でマミーのアンダーシャツがふわりとおちて。
自分の入れ墨に文句をたれる彼に気がついたのは、
名前を呼ばれてからだった。

「トニー、何やってんだ」
「え?え」
「すんじゃねぇの?」

え?!

「別に、いーか、って、俺言ったじゃねぇかよ」
「き、君はそんな理由で人に抱かれるの?!」
「抱かれねぇよ!」

え?

「俺が抱かれると思ったか?大間違いだぜ、
 俺の意にそぐわねぇようなコトしたら絶対殴るからな、奉仕だ奉仕。」

呆れた。
もう、そんなこと言うなら、命令の声も出せ無いようにしてあげようか。
俺を信用してるから、脱いだの?
単なる、遊び?
喧嘩と一緒?
俺の行き場は、どこにあるの?ここにあるの?
何故、肌を見せてくれるんだい?



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