★催後の晩餐★
一人で部屋に放置されて。
近くに落ちてた雑誌なんかをめくってみる。
男性用のファッション誌。コーディネートなんかみたって、おもしろくも何とも無い。
そのままパラパラとめくると、白黒の文章ばかりのコーナーがあった。
そこの挿絵に、漫画の女がいて。漫画の男がいて。
セックスする場所はどこが一番好き、とか、どこでするのは一番いや、とか。
一番イイのは彼氏の家?馬鹿言うな、女って身勝手。
一番嫌なのは、公衆便所?
なに言ってんだ、お前自身が公衆便所だろ。

俺自身も?

雑誌を閉じた。

何もなかったフリをして。そっと唇を触る。犯された唇。
アレを咥えた俺のココは、どんなに卑猥だっただろう。

「どした?気持ちワリィのか?」

ピエロの声に、我に帰る。

「い、いや…」

声を出すことさえも、卑猥に感じて。
ああ、どうしちゃったんだ、俺。こんなに、自分が汚れて見えるなんて。
普通のことじゃないか。
風俗の女がそんなこと気にして口紅を塗るか?
立ちんぼが、そんなこと気にして毎日身体売りながら生きてるか?
俺は、そもそも、あれと一緒、なのか?

「口なんか押さえてるから、吐きたいのかと思ったぜ…
 もしかして、拒食症なのか?」
「拒食…症?」
「パスタ、作ったけど、食えなそうだな…ち、美味いのに。
 アンタ本当タイミング良く吐く真似してくれるわ。気分悪」

ベ、つに。真似なんかじゃない。
吐き気は、しない。けど…
見られたく、ないと。

「食う?」

首を横に振るだけ。

「なんでくわねぇの?俺が作ったからか。
 誰かの為に作ってもこんな反応じゃ気分悪ィよなぁ〜」

意地悪いこと。
なんでそんなこと、言うんだよ。
別に、俺は。
俺は…

「食いたいよ…けど…」
「なによ。」
「誰かに見られてると…恥ずかしいんだよ…」
「はぁ?」

ピエロの素っ頓狂な声の訳は、わかるよ。
こんな理由、お前には理解できないだろ?

「なんで恥ずかしいんだよ?!メシ食うだけじゃん!口に入れるだけだろ?」
「…口に入れるから嫌なんだ」
「んじゃどこで食えッてんだよ?上からじゃなきゃ下から食うのか?」

ズキン。
胸が痛んだから、殴った。

「イッテェ…なんだよ、人が、珍しく心配なんかしてやりゃア。
 あんた本当に性格悪いな!」
「……!」

心配?なんで、心配?

「腹減ってんなら、美味いモン食わせたいじゃねぇか。そしたら、なんだよ」
「……ッ」
「恥ずかしいだ?なに言ってんだ?それで良く今まで生きてきたよな。飯ってのは誰かが必ず作ってるもんだろ?誰かの為に作ってるもんだろ!?それを何だ、恥ずかしいから食えねェ?俺の作ったもんは、なんだ?そんな恥ずかしくなるような代物かよ?!すっげムカツク。あんたみてぇにわからねえヤツははじめてだよ!」
「男のモノ咥えた口でなに食えッてんだよ!!」

え?
乾いた声を出して。
そんな汚いものを見るような顔して。
叫んだ唇を、見ないで。

「ボタン…さん、なにか、あッたんか…?」
「ッるせぇ、お前に何がわかるんだよ、関係ねぇだろ!」
「関係、ない?かよ。」
「ねぇよ!だからほっとけって…」

グイ。
強い力で肩を掴まれて、服を引き寄せられる。
「誰の?」
酷い、質問だ。
聞いて、どうすんだよ。知って、なにすんだよ。
俺を見るなよ。そんな目で俺を、見んなよ。
唇に触れようとした指を強く掴んで、引き離す。
「さわんな…ッ!」
「なんで触ったらいけない?」
なんで…傷を、えぐろうと、するんだ。
傷?
傷だと思うなら、何故、俺はそれを、ほっておいた?
傷なんかじゃない、もう、いつもしていること、いつものこと。
いつも勝也さんが求めればしていたこと。もう、慣れてた。
だから、傷なんかじゃない。それをすることに、もう抵抗なんか、なかったから。
自分から、していたのに。
なんで俺はそれを「汚れ」だと、思うんだろう。

自分の唇が、性器と同レベルだなんて。

□菜食主義者の肉食動物・3◎……ピエボタ

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