★破礼句★
垣根の向こうに金色の髪を見た。
御家の佇まいは一色和を呈して。
すらりと立った着物姿に目を奪われる。
菖蒲か桔梗か濃紫につつまれて、年寄りに会釈をしてこちらをスゥと振り向く。
その目で捉えて一瞬否そゥな顔。
歩みも慣れたもので裾も散らさずにさくさくと飛び石を渡って。

「……」

ハタからみりゃ自分の顔を見て目を丸くする
皮を羽織った青髪の男に一瞥と言う所。

「何か用か?」
「…そのカッコ…」
「茶坊主に使いモンだ、仕方ねぇ」

さらりとそう言いのけて、踵を返して小走りに去ろうとするを捕まえて。
はなせョ、と、小さくもがいた腕に力をこめる。
髪は高く結わえられ、大きく開いたうなじに幾筋かの金色が纏う。

「女かと思ったぜ」
「うるせぇナ、離せってんだろ」
「急ぎか?」
「…なンだ…コスプレパブと同扱いかィ?」

俺の手をパシンと跳ね除けて、ちょいと上げた顔で嘲るような流し目。
へぇ。コイツこういう顔すんのか。
叩かれた手を高く振りかざすと、退いた身体に帯が鳴る。

「別に殴らねぇよ、ビビりやがって」
「っせぇ。お前の顔見てると気分が悪ィ、帰る」
「おいおい、つまんねぇこと言うなよな」
「ああ?」

服装にか言葉にか。そのうなじにか、煽られたのは俺の深い場所。
どうも俺はコイツのこの手の部分に弱いらしい。
気に入ったのは見た目。
中身は乱せばどれも似たような物だろよ。と。

「わかってんだろ?」
「はん、分かりたくもないネェ」
「分かった声だな」
「ふざけるな、テメェに抱かれる身体はねェよ」

へぇ、分かってんじゃねぇかよ。
自分のその格好が俺を煽るってのが、わかってんじゃねェか。
なら、責任は取るべきモンだろう?
両腕を捕らえて、離さなければどう出るか。

「ってぇな、離せ、動き難いんだからよ」
「そりゃ好都合だな。」
「離せ…って…この…」

細身に纏った着物が捩じれる。
その腰に手をかけて。膝を割ったら面白そうだ。

「好きそうな顔して、抱かれたくねぇも何もねえだろ」
「誰が好きそうな顔だ!」
「オマエだ」
「テメェみてぇな発情期の猿といっしょにするなっ!」

まぁまぁ、となだめて。あまりその姿で叫ばれてもこっちが困る。
どうせならイイ声で鳴いて欲しいものなんだがな。
なだめついでに離した腕をひょいと撒くってさすりながら俺から遠ざかる。
完全、無視かよ。

「待てよ」
「否だね」
「殴るぞ」
「……極端な…や、止めろよ…?」

俺の威嚇に脅えて見せるのもどうも今日は演技じみている。
その着物の所為なのか、俺が甘く見られたのか。
なんだか知らんが、どうもこいつが欲しい。
理由も知りたい。こいつなら知ってるかもしれないからな。
何故、俺がおまえを苛めたくなるのかを、な。
悲鳴を上げさせるのは楽しいぜ、その身体引き裂いて。
怖いくせに俺を睨む目を快楽で朦朧とさせるのも、相当な趣ではあるさ。
屈っしないヤツラばかりの中で、
微かに見せた俺への恐怖が俺に取ってどれだけ楽しかったか。
教えてやるよ、何度でも。
抵抗出来る範囲内の恐怖ってヤツがな、どれだけ美味か。

「そんなもの着てるから俺が誘われんだろうが」
「せんないことだ」
「なんだそりゃ」
「…意味のねェことだ!」
「そんじゃ無理にでも、って選択を俺はしてイイのかよ?ん?」

そろそろ強く追いたてて。
どうだよ、オマエ逃げ腰だろ?
その腰を引き寄せて無理矢理従わせようじゃねぇか。
オマエの上手な駆け引きに餓えさせられた俺をそろそろ満たさないか?
演技だろ、怖がるのも。
演技だろう、善がるのも。
そうでなければ悲しくなるから、そうだとしておこうじゃねぇか。

先に立って歩くボタンの後ろから歩く。
チラリと俺を確認してそのたびに文句を言う。
なら、見なきゃイイのによ。
ほら。まただ。

「ついてくんなッ!」
「別に方向が同じなだけじゃねぇの?」
「…っチッ…」

俺を避けるようにして曲がった角から、数百メートル。
その先にある場所を俺は知っている。
其処に行くのか。お前はこれから。

「マミーさん!」

ボタンのそう呼ぶ声がして、ギョッとしてそちらを見る。
向こうも気づいたようで、此方を降り返るのが遠く見えた。
なんだぁ、仕方ねぇな。顔あわせたら拳合わせるのが礼儀ってモンだ。
ボタンの策略に乗らされたようで、舌打ちが出る。
マミーと合わせる拳が一番充実している。
ソレは確かな事だ。相手もそうだろう、
あんなに嬉しそうに喧嘩するやつがあるか。
目を合わせた俺達をそこに置いて、ボタンが消えた。
参ったね。上手い逃げだ。マ
ミーが俺に向かって一瞬困ったように笑った気がした。
その顔はいつもの嘲りの楽しそうな笑顔にすぐに消されたけれども。
なんだよ…。
気持ち分けちまったじゃねぇか。



お次は滅茶苦茶ですvvマミボンだったりボンマミだったり。
両方あっても大丈夫な人だけ進んでね。
破礼句2◎

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