老婦人はにっこり笑うと家のなかに入った。
これから起こることを知りもせずに。
ここの所、ずっと、ずっと入居者がなかった。そのおかげで俺は破裂寸前だったのだ。
老婦人がソファに座ったのを見計らって、ポケットから小瓶を出す。
ぽんと蓋をあけると、アルコールの匂いがつんと鼻をついた。
俺がここに来ていることを知っているのはこの老婦人だけだ。
身よりもなく、金ばかリ有り余っている不幸せな可哀想な老婦人だけだ。
可哀想だから、燃やしてやろう。
老婦人は声も立てずにアルコールの直撃を食らった。
何事かと振り向くその顔めがけてライターの火を投げつけてやる。
奇妙な音を立てて、老婦人が転がった。
音だったか声だったかまでは俺にはわからない、関係ないからな。
立てかけてあった火掻き棒の切っ先を見て笑う俺はヒーローのようだったろう。
ゆっくりと……
炎の塊が、立ちあがる。
「?!」
何事かと、火掻き棒を構えた俺の耳に飛び込んできたのは…
怪談TOP/BACK/NEXT